章4-第13

章4-第13

 

聴:

 

 

足長手長

 

むかしむかし、会津(あいず→福島県)の盆地(ぼんち)に、どこからともなく恐ろしい魔物(まもの)が現れました。

 その怪物は、足長手長(あしながてなが)という夫婦の魔物です。
 夫の足長はその名の通りとても足が長く、どんなに遠くても足を伸ばせば届きます。
 妻の手長はとても手が長く、どんな遠いところの物でも、座ったままでヒョイとつかむ事が出来ました。
 この足長手長の夫婦は、なぜか会津の土地が気に入ったようです。

 妻の手長は磐梯山(ばんだいさん→福島県の北部、猪苗代湖の北にそびえる活火山。標高1819メートル)の頂上(ちょうじょう)に座り、夫の足長は会津盆地をひとまたぎしています。
「手長よ、そろそろ始めるか」
「はいよ、足長」
 二人の魔物は声をかけあうと、足長の足がグングンと伸びて、あちこちの雲をつかんでは会津盆地の上に集めます。
 雲は畑仕事をしている人たちの頭の上をおおい、みるみるうちにあたりは暗くなっていきました。
「今度はおめえだ、手長」
「はいよ、足長」 
 今度は手長が長い手で、猪苗代湖(いなわしろこ→福島県の中央部、湖面標高514メートル。最大深度94メートル。周囲63キロメートル。面積103平方キロメートル)の水をすくってばらまきます。
 それは大粒の雨となって、畑仕事をする人々の上に降りかかりました。
「あっはっはっは、見てみろ、あのあわてぶり!」
「ゆかいだね、足長」 
 足長と手長のせいで、会津は暗い雨の日が続きました。
 村人たちは、ほとほと困りました。
「このまま、おてんとさまが出なければ、家のダイコンが枯れてしまうぞ」
「このまま作物が枯れてしまったら、おらたちはどうなるだ?」
「そりゃあ、飢え死にしかねえ」
「何とか、ならねえか」
「何とかと言っても、相手があんな魔物では」 
 こんな村人たちを見て、足長手長は大喜びです。

 そんなある日の事、ボロボロの衣をまとった
弘法大師(こうぼうだいし)というお坊さんが、この会津の村にやって来ました。
「これはひどい」
 荒れ果てた村の様子に驚いた弘法大師は、村人たちに話を聞きました。
「よし、その魔物をこらしめてやろう」
 弘法大師はそう言うと、すぐに磐梯山の頂上に登りました。
 そして頂上から、大声で言いました。
「足長手長! わしはここを通りかかった旅の僧じゃ。姿を見せんか!」
 弘法大師の声に、足長と手長が現れました。
「わっはっはっは、何じゃ、人間の坊主か」
「人間にしては、大声な声を出しよるわ」
「足長手長。わしの言う事をよく聞け! お前らは、どんな事でも出来ると思っとるだろうが、どんなに頑張っても出来ん事があるぞ」
「何を言うか。この世の中に、わしらに出来ぬ事など何一つないわ」
「そうか、ならばわしの言う通りにやってみろ。もし出来なければ、お前たちはすぐにこの会津の土地を出て行くのだ」
「よし、わかった。どんな事か、言ってみろ。ただし、それが出来たらお前を食ってやるからな」
 弘法大師は、ふところから小さなつぼを取り出して言いました。
「足長手長よ。
 お前らは、ずいぶんと大きい。
 だから二人一緒に、こんな小さなつぼに入る事は出来んじゃろう?
 どうじゃ、まいったか。
 わっはっはっは!」
「何だ、そんな簡単な事か。ではいくぞ、手長」
「あいよ、足長」
 二人は声をかけあうと、みるみるうちに小さくなってつぼの中へ入ってしまいました。
 すると弘法大師はニヤリと笑って、つぼのふたをきゅっと閉めました。
 突然ふたを閉められて、足長と手長はびっくりです。
「こら! ここから出せ! 早くふたを開けろー! 開けねばつぼを壊してやるぞ!」
 つぼの中で足長と手長が暴れますが、つぼはびくともしません。
「馬鹿者! 人々を苦しめたばつとして、お前ら二人は永遠につぼの中に入っておれ!」
 弘法大師はそのつぼを磐梯山の頂上に埋めると、上に大きな石を乗せて二度と出て来られない様にしました。
「ちくしょう、このつぼは、何で壊れないんだー!」
 つぼには弘法大師の法力がかかっているので、足長や手長の力では決して壊れません。
 やがて二人はあきらめたのか、静かになりました。
 すると弘法大師が、つぼの中の足長と手長に言いました。
「お前たちを山の守り神として祭ってやるから、村人たちの為につくすがよいぞ」
 こうして足長と手長は、弘法大師によって退治されたのです。

 

おしまい

 

ふりがな

 

聴: 

 

 

足長手長

 

むかしむかし、会津あいづ(あいず→福島ふくしま県けん)の盆地ぼんち(ぼんち)に、どこからともなく恐おそろしい魔物まもの(まもの)が現あらわれました。

 その怪物かいぶつは、足長あしなが手長てなが(あしながてなが)という夫婦ふうふの魔物まものです。
 
夫おっとの足長あしながはその名なの通とおりとても足あしが長ながく、どんなに遠とおくても足あしを伸のばせば届とどきます。
 
妻つまの手長てながはとても手てが長ながく、どんな遠とおいところの物ものでも、座すわったままでヒョイとつかむ事ことが出来できました。
 この
足長あしなが手長てながの夫婦ふうふは、なぜか会津あいづの土地とちが気きに入いったようです。

 
妻つまの手長てながは磐梯山ばんだいさん(ばんだいさん→福島ふくしま県けんの北部ほくぶ、猪苗代湖いなわしろこの北きたにそびえる活火山かっかざん。標高ひょうこう1819メートル)の頂上ちょうじょう(ちょうじょう)に座すわり、夫おっとの足長あしながは会津盆地あいづぼんちをひとまたぎしています。
「
手長てながよ、そろそろ始はじめるか」
「はいよ、
足長あしなが」
 
二に人にんの魔物まものは声こえをかけあうと、足長あしながの足あしがグングンと伸のびて、あちこちの雲くもをつかんでは会津盆地あいづぼんちの上うえに集あつめます。
 
雲くもは畑はたけ仕事しごとをしている人ひとたちの頭あたまの上うえをおおい、みるみるうちにあたりは暗くらくなっていきました。
「
今度こんどはおめえだ、手長てなが」
「はいよ、
足長あしなが」 
 
今度こんどは手長てながが長ながい手てで、猪苗代湖いなわしろこ(いなわしろこ→福島ふくしま県けんの中央ちゅうおう部ぶ、湖面こめん標高ひょうこう514メートル。最大さいだい深度しんど94メートル。周囲しゅうい63キロメートル。面積めんせき103平方へいほうキロメートル)の水みずをすくってばらまきます。
 それは
大粒おおつぶの雨あめとなって、畑はたけ仕事しごとをする人々ひとびとの上うえに降おりかかりました。
「あっはっはっは、
見みてみろ、あのあわてぶり!」
「ゆかいだね、
足長あしなが」 
 
足長あしながと手長てながのせいで、会津あいづは暗くらい雨あめの日ひが続つづきました。
 
村人むらびとたちは、ほとほと困こまりました。
「このまま、おてんとさまが
出でなければ、家いえのダイコンが枯かれてしまうぞ」
「このまま
作物さくもつが枯かれてしまったら、おらたちはどうなるだ?」
「そりゃあ、
飢うえ死じににしかねえ」
「
何なにとか、ならねえか」
「
何なにとかと言いっても、相手あいてがあんな魔物まものでは」 
 こんな
村人むらびとたちを見みて、足長あしなが手長てながは大だい喜よろこびです。

 そんなある
日ひの事こと、ボロボロの衣ころもをまとった弘法大師こうぼうだいし(こうぼうだいし)というお坊ぼうさんが、この会津あいづの村むらにやって来きました。
「これはひどい」
 
荒あれ果はてた村むらの様子ようすに驚おどろいた弘法大師こうぼうだいしは、村人むらびとたちに話はなしを聞ききました。
「よし、その
魔物まものをこらしめてやろう」
 
弘法大師こうぼうだいしはそう言いうと、すぐに磐梯山ばんだいさんの頂上ちょうじょうに登のぼりました。
 そして
頂上ちょうじょうから、大声おおごえで言いいました。
「
足長あしなが手長てなが! わしはここを通とおりかかった旅たびの僧そうじゃ。姿すがたを見みせんか!」
 
弘法大師こうぼうだいしの声こえに、足長あしながと手長てながが現あらわれました。
「わっはっはっは、
何なにじゃ、人間にんげんの坊主ぼうずか」
「
人間にんげんにしては、大声おおごえな声こえを出だしよるわ」
「
足長あしなが手長てなが。わしの言いう事ことをよく聞きけ! お前まえらは、どんな事ことでも出来できると思おもっとるだろうが、どんなに頑張がんばっても出来できん事ことがあるぞ」
「
何なにを言いうか。この世よの中なかに、わしらに出来できぬ事ことなど何一なにひとつないわ」
「そうか、ならばわしの
言いう通とおりにやってみろ。もし出来できなければ、お前まえたちはすぐにこの会津あいづの土地とちを出でて行いくのだ」
「よし、わかった。どんな
事ことか、言いってみろ。ただし、それが出来できたらお前まえを食くってやるからな」
 
弘法大師こうぼうだいしは、ふところから小ちいさなつぼを取とり出だして言いいました。
「
足長あしなが手長てながよ。
 お
前まえらは、ずいぶんと大おおきい。
 だから
二に人にん一緒いっしょに、こんな小ちいさなつぼに入はいる事ことは出来できんじゃろう?
 どうじゃ、まいったか。
 わっはっはっは!」
「
何なんだ、そんな簡単かんたんな事ことか。ではいくぞ、手長てなが」
「あいよ、
足長あしなが」
 
二に人にんは声こえをかけあうと、みるみるうちに小ちいさくなってつぼの中なかへ入はいってしまいました。
 すると
弘法大師こうぼうだいしはニヤリと笑わらって、つぼのふたをきゅっと閉しめました。
 
突然とつぜんふたを閉しめられて、足長あしながと手長てながはびっくりです。
「こら! ここから
出しゅっせ! 早はやくふたを開あけろー! 開あけねばつぼを壊こわしてやるぞ!」
 つぼの
中なかで足長あしながと手長てながが暴あばれますが、つぼはびくともしません。
「
馬鹿者ばかもの! 人々ひとびとを苦くるしめたばつとして、お前まえら二に人にんは永遠えいえんにつぼの中なかに入はいっておれ!」
 
弘法大師こうぼうだいしはそのつぼを磐梯山ばんだいさんの頂上ちょうじょうに埋うめると、上うえに大おおきな石いしを乗のせて二度にどと出でて来こられない様ようにしました。
「ちくしょう、このつぼは、
何なんで壊こわれないんだー!」
 つぼには
弘法大師こうぼうだいしの法力ほうりきがかかっているので、足長あしながや手長てながの力ちからでは決けっして壊こわれません。
 やがて
二に人にんはあきらめたのか、静しずかになりました。
 すると
弘法大師こうぼうだいしが、つぼの中なかの足長あしながと手長てながに言いいました。
「お
前まえたちを山やまの守まもり神がみとして祭まつってやるから、村人むらびとたちの為ためにつくすがよいぞ」
 こうして
足長あしながと手長てながは、弘法大師こうぼうだいしによって退治たいじされたのです。
 

おしまい

 
 

 
 
 
 
 
 
 
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