第14

章3-第14

 

聴:

 

 

沼女の手紙

 

むかしむかし、あるところに、みぞう沼という沼があり、その沼の近くに孫四郎(そんしろう)というお百姓が住んでいました。


 ある日、村人たちが大勢で、お伊勢参りへ出かける事になりました。
 孫四郎も誘われたのですが、家が貧乏だったので誘いを断ると、いつもの様にみぞう沼へ行って岸の草を刈っていました。
 すると突然、沼から美しい女の人が現れて、孫四郎にこう言ったのです。
「お前さんが、毎日そうやって岸の草を刈ってくれるので、本当にありがたく思っております。何か礼をしたい思うが、望みの物はありませんか?」
「はい、わたしはお伊勢参りがしたいのですが、お金がなくて、それが出来ません」
 孫四郎が言うと、女の人はにっこりして、
「それは、たやすい事。
 わたしが、お伊勢参りに行くお金をあげましょう。
 しかし、一つ頼みがあります。
 途中、富士山のふもとに青沼と言うのがあるから、そこへ寄って来てもらいたいのです。
 その沼へ行って手を叩くと、沼から女が出てきます。
 それはわたしの妹ですから、妹に手紙を渡して下さい。
 さあ、これはお伊勢参りのお金と手紙です」
 そう言って沼の女は、孫四郎にお金と手紙をくれました。
 孫四郎は大喜びで村に戻ると、お伊勢参りに参加して、みんなと一緒に旅立ちました。

 さて、一行が富士山の近くに来た時、孫四郎はみんなと別れると教えられた青沼を探す事にしました。
 途中で六部(ろくぶ→六十六ヶ所のお寺をまわる巡礼の人)に出会ったので、孫四郎が青沼の場所を尋ねてみると、六部が不思議そうに尋ねました。
「青沼ですか? 知ってはいますが、なぜ青沼へ行くのですか? なにしろあそこは、怪しい物が住んでいるとのうわさですから」
「怪しい物? いや、そんなはずはありません。そこには親切な沼女の妹が住んでいるはずですから」
 孫四郎は沼女の事を話して、沼女にもらった手紙を六部に見せました。
 すると六部がその手紙を読んで、
「これは大変だ!」
と、言うのです。
「何が、大変なのですか?」
 字が読めない孫四朗が尋ねると、六部が手紙を読んでくれました。
《この男は、毎日わたしの沼の草を刈って、わたしの隠れる場所をなくしてしまう。
 取って食おうと思うけれど、そうすると沼にわたしのいる事が人間たちにばれてしまう。
 そこで、お前の所へ寄らせるから、代わりに食べておくれ。
 みぞう沼の姉より》
 それを聞いた孫四郎がまっ青な顔で震えていると、六部がにっこり笑って言いました。
「心配ない。わたしが手紙を書き直してあげよう」
 そして六部は、筆を取り出すと、
《この男は、毎日わたしの沼の草を刈ってくれるので、何かお礼をしたい。
 そこで、お前の方でお礼の用意をしておくれ。
 金を生む馬をやってくれると、ありがたい。
 みぞう沼の姉より》
と、手紙を書き直してくれました。
 そして孫四郎はその手紙を持って青沼へ行き、パンパンパンと手を叩きました。
 すると美しい女が沼から現れたので、孫四郎は手紙を渡しました。
 手紙を読んだ沼女は、しばらく不思議そうな顔をしていましたが、
「ふーん。あの姉が、人間にお礼をねえ。・・・まあいいわ、それでは沼の中へ来てください」
と、言いました。
「あの、沼の中へ来いと言っても・・・」
 孫四郎が困っていると、
「わたしにおぶさって、目をつぶりなさい」
と、沼女が言いました。
 孫四郎が言われた通り、沼女におぶさって目を閉じると、間もなく、
「さあ、もう目を開けていいですよ」
と、沼女が言いました。
 孫四郎が目を開けてみると、そこはとても美しい家の中です。
 金びょうぶ、銀びょうぶがたってあって、床の間には美しい宝石が飾ってあります。
 孫四郎はしばらくの間、そこで泊まる事になりました。
 毎日毎日、大変なごちそうが出て、女中たちが琴やしゃみせんで孫四郎をもてなしてくれます。
 あっという間に数日間が過ぎ、孫四郎は沼女に言いました。
「あの、そろそろ帰らせてもらいます」
 すると沼女は馬屋から一頭の馬を連れて来て、孫四郎に言いました。
「これは姉に良くしてくれたお礼の馬です。この馬は一日に一合の米をやれば、金を一粒産みます」
 そして沼女は孫四郎と馬を背負うと、再び沼の外へと送ってくれました。
 孫四郎は沼女にお礼を言うと、馬にまたがって言いました。
「さあ、とにかく、お伊勢参りに行かなくては」
 すると馬が、ヒヒーン! と、いななくと、不思議な事に孫四郎と馬は、もう伊勢神宮へ来ていたのです。
「うひゃー、何て足の速い馬だろう」
 孫四郎はお伊勢参りをすませると、再び馬にまたがって、
「さあ、今度は村に帰らないと」
と、言いました。
 すると馬がヒヒーン! と、いなないて、孫四郎と馬はもう村の入り口に来ていたのです。

 それから孫四郎は、馬に毎日一合ずつの米をやりました。
 すると沼女の言った様に、馬は一粒ずつの金を産み落としたのです。
 一粒といっても金ですから、大変な価値があります。
 孫四郎はたちまち、村一番の長者になりました。

 さて、孫四郎には、なまけ者で欲張りな弟がいます。
 その弟が、
「貧乏だった兄さんが長者になったのには、何かわけがあるに違いない」
と、考え、そっと孫四郎の家に忍び込むと中の様子を見張りました。
 すると奥座敷に馬が一頭隠してあって、それが毎日一合の米を食べては、一粒の金を生んでいるとわかったのです。
「なるほど、兄さんが長者になったのは、あの馬のおかげか。
 しかし、毎日一合の米ではもったいない。
 おれなら一升(いっしょう→一合の十倍)の米を食わせて、十粒の金を手に入れるのに」
 そこで弟は孫四郎が留守のすきに馬を盗み出すと、自分の家に連れて行って一升もの米を馬に無理矢理食べさせたのです。
「さあ、食え食え、どんどん食って、金をどっさり産んでくれ」
 すると馬は、とても元気になって、
「ヒヒヒーン! ヒヒヒーン!」
と、いななきながら家を飛び出して、陸中の国(りくちゅうのくに→岩手県と秋田県の国境)のある山の上へ飛んで行ってしまいました。

 今では駒ヶ岳(こまがたけ)と言われている山が、その馬が飛んで行った山だそうです。

 

おしまい

 

ふりがな

 

聴: 

 

 

沼女の手紙

 

むかしむかし、あるところに、みぞう沼ぬまという沼ぬまがあり、その沼ぬまの近ちかくに孫まご四よん郎ろう(そんしろう)というお百姓ひゃくしょうが住すんでいました。

 ある
日ひ、村人むらびとたちが大勢おおぜいで、お伊勢参いせまいりへ出でかける事ことになりました。
 
孫まご四よん郎ろうも誘さそわれたのですが、家いえが貧乏びんぼうだったので誘さそいを断ことわると、いつもの様ようにみぞう沼ぬまへ行いって岸きしの草くさを刈かっていました。
 すると
突然とつぜん、沼ぬまから美うつくしい女おんなの人ひとが現あらわれて、孫まご四よん郎ろうにこう言いったのです。
「お
前まえさんが、毎日まいにちそうやって岸きしの草くさを刈かってくれるので、本当ほんとうにありがたく思おもっております。何なにか礼れいをしたい思おもうが、望のぞみの物ものはありませんか?」
「はい、わたしはお
伊勢参いせまいりがしたいのですが、お金かねがなくて、それが出来できません」
 
孫まご四よん郎ろうが言いうと、女おんなの人ひとはにっこりして、
「それは、たやすい
事こと。
 わたしが、お
伊勢参いせまいりに行いくお金かねをあげましょう。
 しかし、
一ひとつ頼たのみがあります。
 
途中とちゅう、富士山ふじさんのふもとに青沼あおぬまと言いうのがあるから、そこへ寄よって来きてもらいたいのです。
 その
沼ぬまへ行いって手てを叩たたくと、沼ぬまから女おんなが出でてきます。
 それはわたしの
妹いもうとですから、妹いもうとに手紙てがみを渡わたして下ください。
 さあ、これはお
伊勢参いせまいりのお金かねと手紙てがみです」
 そう
言いって沼ぬまの女おんなは、孫まご四よん郎ろうにお金かねと手紙てがみをくれました。
 
孫まご四よん郎ろうは大だい喜よろこびで村むらに戻もどると、お伊勢参いせまいりに参加さんかして、みんなと一緒いっしょに旅立たびだちました。

 さて、
一いち行ぎょうが富士山ふじさんの近ちかくに来きた時とき、孫まご四よん郎ろうはみんなと別わかれると教おしえられた青沼あおぬまを探さがす事ことにしました。
 
途中とちゅうで六ろく部ぶ(ろくぶ→六ろく十じゅう六ろくヶ所かしょのお寺てらをまわる巡礼じゅんれいの人ひと)に出会であったので、孫まご四よん郎ろうが青沼あおぬまの場所ばしょを尋たずねてみると、六部ろくぶが不思議ふしぎそうに尋たずねました。
「
青沼あおぬまですか? 知しってはいますが、なぜ青沼あおぬまへ行いくのですか? なにしろあそこは、怪あやしい物ものが住すんでいるとのうわさですから」
「
怪あやしい物もの? いや、そんなはずはありません。そこには親切しんせつな沼ぬま女おんなの妹いもうとが住すんでいるはずですから」
 
孫まご四よん郎ろうは沼ぬま女おんなの事ことを話はなして、沼ぬま女おんなにもらった手紙てがみを六ろく部ぶに見みせました。
 すると
六ろく部ぶがその手紙てがみを読よんで、
「これは
大変たいへんだ!」
と、
言いうのです。
「
何なにが、大変たいへんなのですか?」
 
字じが読よめない孫まご四よん朗ろうが尋たずねると、六部ろくぶが手紙てがみを読よんでくれました。
《この
男おとこは、毎日まいにちわたしの沼ぬまの草くさを刈かって、わたしの隠かくれる場所ばしょをなくしてしまう。
 
取とって食ぐおうと思おもうけれど、そうすると沼ぬまにわたしのいる事ことが人間にんげんたちにばれてしまう。
 そこで、お
前まえの所ところへ寄よらせるから、代かわりに食たべておくれ。
 みぞう
沼ぬまの姉あねより》
 それを
聞きいた孫まご四よん郎ろうがまっ青さおな顔かおで震ふるえていると、六部ろくぶがにっこり笑わらって言いいました。
「
心配しんぱいない。わたしが手紙てがみを書かき直なおしてあげよう」
 そして
六ろく部ぶは、筆ふでを取とり出だすと、
《この
男おとこは、毎日まいにちわたしの沼ぬまの草くさを刈かってくれるので、何なにかお礼れいをしたい。
 そこで、お
前まえの方ほうでお礼れいの用意よういをしておくれ。
 
金かねを生うむ馬うまをやってくれると、ありがたい。
 みぞう
沼ぬまの姉あねより》
と、
手紙てがみを書かき直なおしてくれました。
 そして
孫まご四よん郎ろうはその手紙てがみを持もって青沼あおぬまへ行いき、パンパンパンと手てを叩はたきました。
 すると
美うつくしい女おんなが沼ぬまから現あらわれたので、孫まご四よん郎ろうは手紙てがみを渡わたしました。
 
手紙てがみを読よんだ沼ぬま女おんなは、しばらく不思議ふしぎそうな顔かおをしていましたが、
「ふーん。あの
姉あねが、人間にんげんにお礼れいをねえ。・・・まあいいわ、それでは沼ぬまの中なかへ来きてください」
と、
言いいました。
「あの、
沼ぬまの中なかへ来こいと言いっても・・・」
 
孫まご四よん郎ろうが困こまっていると、
「わたしにおぶさって、
目めをつぶりなさい」
と、
沼ぬま女おんなが言いいました。
 
孫まご四よん郎ろうが言いわれた通とおり、沼ぬま女おんなにおぶさって目めを閉とじると、間まもなく、
「さあ、もう
目めを開あけていいですよ」
と、
沼ぬま女おんなが言いいました。
 
孫まご四よん郎ろうが目めを開あけてみると、そこはとても美うつくしい家いえの中なかです。
 
金きむびょうぶ、銀ぎんびょうぶがたってあって、床とこの間まには美うつくしい宝石ほうせきが飾かざってあります。
 
孫まご四よん郎ろうはしばらくの間ま、そこで泊とまる事ことになりました。
 
毎日まいにち毎日まいにち、大変たいへんなごちそうが出でて、女中じょちゅうたちが琴きんやしゃみせんで孫まご四よん郎ろうをもてなしてくれます。
 あっという
間まに数すう日間にちかんが過すぎ、孫まご四よん郎ろうは沼ぬま女おんなに言いいました。
「あの、そろそろ
帰かえらせてもらいます」
 すると
沼ぬま女おんなは馬屋うまやから一いち頭とうの馬うまを連つれて来きて、孫まご四よん郎ろうに言いいました。
「これは
姉あねに良よくしてくれたお礼れいの馬うまです。この馬うまは一いち日にちに一いち合ごうの米こめをやれば、金かねを一いち粒つぶ産うみます」
 そして
沼ぬま女おんなは孫まご四よん郎ろうと馬うまを背負せおうと、再ふたたび沼ぬまの外そとへと送おくってくれました。
 
孫まご四よん郎ろうは沼ぬま女おんなにお礼れいを言いうと、馬うまにまたがって言いいました。
「さあ、とにかく、お
伊勢参いせまいりに行いかなくては」
 すると
馬うまが、ヒヒーン! と、いななくと、不思議ふしぎな事ことに孫まご四よん郎ろうと馬うまは、もう伊勢神宮いせじんぐうへ来きていたのです。
「うひゃー、
何なにて足あしの速はやい馬うまだろう」
 
孫まご四よん郎ろうはお伊勢参いせまいりをすませると、再ふたたび馬ばにまたがって、
「さあ、
今度こんどは村むらに帰かえらないと」
と、
言いいました。
 すると
馬うまがヒヒーン! と、いなないて、孫まご四よん郎ろうと馬うまはもう村むらの入いり口くちに来きていたのです。

 それから
孫まご四よん郎ろうは、馬うまに毎日まいにち一いち合ごうずつの米こめをやりました。
 すると
沼ぬま女おんなの言いった様ように、馬うまは一いち粒つぶずつの金かねを産うみ落おとしたのです。
 
一いち粒つぶといっても金かねですから、大変たいへんな価値かちがあります。
 
孫まご四よん郎ろうはたちまち、村むら一番いちばんの長者ちょうじゃになりました。

 さて、
孫まご四よん郎ろうには、なまけ者もので欲張よくばりな弟おとうとがいます。
 その
弟おとうとが、
「
貧乏びんぼうだった兄にいさんが長者ちょうじゃになったのには、何なにかわけがあるに違ちがいない」
と、
考かんがえ、そっと孫まご四よん郎ろうの家いえに忍しのび込こむと中なかの様子ようすを見張みはりました。
 すると
奥おく座敷ざしきに馬うまが一いち頭とう隠かくしてあって、それが毎日まいにち一いち合ごうの米こめを食たべては、一粒ひとつぶの金かねを生うんでいるとわかったのです。
「なるほど、
兄にいさんが長者ちょうじゃになったのは、あの馬うまのおかげか。
 しかし、
毎日まいにち一いち合ごうの米べいではもったいない。
 おれなら
一いち升しょう(いっしょう→一いち合ごうの十じゅう倍ばい)の米こめを食くわせて、十じゅう粒つぶの金かねを手てに入いれるのに」
 そこで
弟おとうとは孫まご四よん郎ろうが留守るすのすきに馬うまを盗ぬすみ出だすと、自分じぶんの家いえに連つれて行いって一いち升しょうもの米こめを馬うまに無理矢理むりやり食たべさせたのです。
「さあ、
食くえ食ぐえ、どんどん食くって、金かねをどっさり産うんでくれ」
 すると
馬うまは、とても元気げんきになって、
「ヒヒヒーン! ヒヒヒーン!」
と、いななきながら
家いえを飛とび出だして、陸中りくちゅうの国くに(りくちゅうのくに→岩手いわて県けんと秋田あきた県けんの国境こっきょう)のある山やまの上うえへ飛とんで行いってしまいました。

 
今いまでは駒ヶ岳こまがだけ(こまがたけ)と言いわれている山やまが、その馬うまが飛とんで行いった山やまだそうです。

 

おしまい

 
 

 
 
 
 
 
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